※2000年9月23日の日記です。
初めての海外一人旅、3日目。
この日は、今回の韓国滞在の中でもかなり大きな日だった。
なぜなら、ネットで知り合っていた韓国の友人・Wonと、ついに実際に会う日だったからだ。
今なら、ネットで知り合った人と会うこと自体は、それほど珍しくないのかもしれない。
SNSもあるし、ビデオ通話もあるし、相手の雰囲気も事前にある程度分かる。
でも2000年当時は、今とは全然感覚が違った。
NETOMOという交流サイトで知り合って、文字だけでやり取りしていた相手。
画面の向こうにいた人が、本当に目の前に現れる。
それだけで、自分にとってはかなり大きな出来事だった。
しかも、ここは韓国。
自分は初海外一人旅の真っ最中。
昨日までは、自分がソウルにいると思い込んでいたら、どうやらソウル市内ではないらしいと分かるくらい、現在地すらあやしい状態だった。
ホテルも初日に空港でどうにか探した。
英語もまともに通じない。
テレホンカードは逆に入れる。
そんなレベルの大学生が、ネットで知り合った韓国人と会う。
今思うと、なかなかすごい状況である。
でも、この日があったからこそ、自分の中で「海外旅行」というものの印象が大きく変わった気がする。
景色だけではない。
食べ物だけでもない。
海外って、人なんだな。
そう思うきっかけになった一日だった。
朝10時、ホテルの部屋でそわそわ待つ
朝。
ホテルの部屋で、Wonが来るのを待っていた。
約束の時間は10時。
昨日、電話で「明日ホテルまで行くよ」と言ってくれていた。
正直、かなりありがたかった。
自分がどこかの駅や観光地まで行って待ち合わせをするとなると、かなり不安があったと思う。
韓国語は分からない。
地名も正確に読めない。
自分がいる場所すら、ソウル市内ではなかったらしい。
そんな状態で、現地集合はなかなかハードルが高い。
だから、ホテルまで来てくれるというだけで、安心感があった。
それでも、待っている時間はそわそわした。
ネットでやり取りしていた相手。
電話では少し話した相手。
でも、実際に会うのは初めて。
どんな人なんだろう。
ちゃんと会話できるんだろうか。
気まずくならないだろうか。
そんなことを考えていた。
今なら、会う前に写真を見たり、SNSを確認したりできるかもしれない。
でも当時は、そういう情報がほとんどない。
文字のやり取りから想像するしかない。
ホテルの部屋で、時間を気にしながら待っていた。
そして、ちょうど10時頃。
「コンコン」
ドアをノックする音がした。
ネット越しではないリアルの出会い
時計を見ると、ちょうど10時。
時間ぴったりだった。
「時間ぴったりだな……」
そう思いながら、軽く深呼吸してドアを開けた。
そこには、Wonがいた。
ついに、ネット越しではないリアルの出会い。
正直、ちょっと感動した。
今まで画面の文字だけでやり取りしていた人が、目の前にいる。
海外の友人が、本当に実在している。
当たり前といえば当たり前だけど、当時の自分にはかなり不思議な感覚だった。
インターネットが、ただの画面の中の世界ではなく、現実の人間関係につながる。
それを初めて強く感じた瞬間だったと思う。
ただし、感動だけで物事は進まない。
ここで大きな問題があった。
言葉がほぼ通じない。
Wonは日本語がほとんど話せなかった。
自分も英語が得意というわけではない。
韓国語はもちろん分からない。
つまり、会えたはいいけれど、会話の手段がかなり限られていた。
海外一人旅3日目。
またしても言葉の壁である。
Wonが知っていた日本語がまさかの言葉だった
Wonは日本語をほとんど話せない。
ただ、知っている日本語の単語はいくつかあるらしかった。
そこで出てきた言葉が、まさかのこれだった。
「しばくぞ われ」
いや、どんな日本語を教わっているんだよ。
初対面でそれは強すぎる。
もっとあるだろう。
こんにちは。
ありがとう。
元気ですか。
日本から来ました。
いろいろある。
なぜそこへ行ったのか。
たぶん、誰かが面白がって教えたのだと思う。
日本語としては、なかなかクセが強い。
しかも関西っぽい。
自分は関西人ではないけれど、それでも「これは普通の初級日本語ではない」ということは分かる。
思わず笑ってしまった。
言葉が通じない中で、最初に出てきた日本語がそれ。
ツッコミどころ満載のスタートだった。
でも、逆にそのおかげで少し緊張がほぐれた気もする。
完璧な会話はできない。
でも、笑える。
それだけでも大きかった。
ジェスチャーと簡単な英語で出発する
言葉はほとんど通じない。
でも、このままホテルの部屋にいても仕方ない。
Wonは案内してくれるつもりで来てくれている。
こちらも、せっかくなので韓国の街を見たい。
ということで、ジェスチャーと簡単な英語で意思疎通しながら出発することになった。
このときの会話は、たぶんかなりシンプルだったと思う。
「Go」
「Bus」
「Train」
「OK」
そんな単語と身振り手振りで、なんとか進む。
日本語と韓国語が通じなくても、目的地へ向かうことはできる。
もちろん、細かい話はできない。
冗談もあまり伝わらない。
複雑な説明も無理。
でも、隣に現地の友人がいるだけで、昨日までとは安心感が全然違った。
昨日は一人で、知らない街へタクシーで行き、どこにいるのかもよく分からなかった。
今日はWonがいる。
言葉は通じなくても、現地の人が一緒にいる。
それだけで、韓国の街が少し近く感じた。
バスと電車でソウル観光へ
ホテルから、バスと電車を乗り継いで移動した。
向かったのは、仁寺洞。
インサドンと読む。
伝統的な雰囲気が残る観光エリアで、いわゆる“韓国らしい街並み”が広がっている場所だった。
昨日、自分が一人で歩いた街とは、また雰囲気が違う。
観光地らしさがある。
平日だったけれど、観光客はそこそこ多かった。
日本人らしき人たちも、ちらほら見かけた。
このとき、
「ああ、海外に来てるなぁ……」
と、ようやく実感が湧いてきた。
初日はホテル探しで終わった。
2日目はどこかよく分からない街を一人で歩いた。
それはそれで旅だったけれど、仁寺洞に来て初めて、ちゃんと韓国観光をしている感じがした。
通りの雰囲気。
店の並び。
伝統的なものと観光地らしい賑わい。
そこに、Wonと一緒に歩いている自分。
初海外3日目にして、ようやく「韓国に来たんだ」と体が理解し始めた気がした。
仁寺洞で初めて韓国茶を飲む
まず入ったのは、仁寺洞の中にあるお茶屋だった。
店内は落ち着いた雰囲気。
日本でいうと、和カフェに近い感じだったと思う。
旅行中に、こういう落ち着いた店に入ると少しホッとする。
外は知らない街。
看板は読めない。
会話も難しい。
でも、座ってお茶を飲むと、少し気持ちが落ち着く。
ここで自分が頼んだのは、ゆず茶。
これが、めちゃくちゃ美味しかった。
甘さの中に、ほんのり酸味がある。
しかも、果肉がゴロゴロ入っている。
飲み物というより、軽いデザートに近い。
当時の自分には、かなり新鮮だった。
「これ、日本でも流行りそうだな……」
そんなことを思いながら飲んでいた記憶がある。
今でこそ、ゆず茶は日本でも見かけることがある。
でも当時の自分にとっては、韓国で初めて出会った味だった。
お茶という名前だけど、普通のお茶とはかなり違う。
甘くて、香りがあって、果肉も楽しめる。
初海外の自分には、これだけでもちょっとしたカルチャーショックだった。
メニューを見るだけでも文化が違う
そのお茶屋には、ゆず茶以外にもいろいろなメニューがあった。
緑茶。
シナモン茶。
高麗人参ジュース。
日本ではあまり見かけないようなものが並んでいた。
メニューを見るだけでも面白い。
同じ「お茶」でも、国が違うとこんなに違うのかと思った。
日本でお茶といえば、緑茶やほうじ茶、麦茶などを思い浮かべる。
でも韓国では、ゆず茶やシナモン茶、高麗人参のようなものも自然に並んでいる。
もちろん、韓国に詳しい人なら当たり前なのかもしれない。
でも、当時の自分にとっては全部が新鮮だった。
海外旅行の面白さは、有名観光地だけではない。
こういうメニューの違いにもある。
ちょっとした店に入る。
飲み物を選ぶ。
その中に、日本とは違う文化がある。
しかも、頭で理解する前に、味として入ってくる。
ゆず茶を飲みながら、
「韓国ってこういう感じなのか」
と、少しだけ近づけた気がした。
日本人留学生と会う流れになる
お茶を飲んだあと、Wonが何かを言ってきた。
簡単な英語とジェスチャーで、
「日本人、会う?」
みたいな感じだった。
え、そんな展開ある?
と思った。
韓国で、韓国人の友人と会って、その友人が日本人を紹介してくれる。
初海外一人旅3日目にして、展開が早い。
自分は戸惑いつつも、会ってみることにした。
しばらくすると現れたのは、自分より少し年上の日本人男性だった。
海外で日本語が通じる人に会うと、それだけで少し安心する。
昨日までは、ホテルの女性スタッフの片言の日本語に救われた。
今日は、日本人本人である。
言葉が通じる。
それだけで、かなり気持ちが楽になる。
話を聞くと、その人は韓国に一人で来て生活しているらしかった。
しかも、ボランティア活動もしているという。
これにはかなり衝撃を受けた。
同じ日本人なのに行動力が違いすぎた
自分は、初めての海外で右も左も分からない状態だった。
ホテルを予約せずに来て、初日に空港で詰んだ。
タクシーも不安。
電話も逆挿し。
韓国語も分からない。
英語も怪しい。
そんな自分の前に、韓国で一人で生活している日本人が現れた。
しかもボランティア活動までしている。
同じ日本人なのに、ここまで違うのかと思った。
自分にとって海外は、まだ「来るだけで精いっぱい」の場所だった。
でもその人にとっては、もう「生活する場所」だった。
この差は大きかった。
行動力って、こういうことなんだなと思った。
自分は、深夜特急に影響されて勢いで海外に来た。
それだけでも、自分なりには大きな一歩だった。
でも、世の中にはもっと先に進んでいる人がいる。
知らない国で暮らし、現地の人と関わり、活動している人がいる。
大学生の自分にとって、それはかなり刺激的だった。
何か説教されたわけではない。
でも、その存在だけで刺さった。
「ああ、こういう人もいるんだ」
それは、旅先で出会った大きな衝撃の一つだった。
3人で焼肉屋へ行く
そのまま3人で昼ごはんへ向かった。
場所はホテルの近くの焼肉屋。
韓国といえば焼肉。
これは外せない。
日本でも焼肉は食べられる。
でも、韓国で食べる焼肉には特別感がある。
本場で食べる。
この響きだけでテンションが上がる。
ただ、ここで予想外の事態が起きた。
量がとにかく多い。
自分の感覚では、頼んだ量以上の肉がどんどん運ばれてくるように感じた。
「いや、これ絶対無理でしょ……」
と思った。
日本の感覚で注文すると、完全にミスるやつだった。
韓国の焼肉文化に慣れている人なら普通なのかもしれない。
でも当時の自分には、かなりのボリュームに見えた。
テーブルの上にどんどん並ぶ肉。
焼く。
食べる。
また出てくる。
若い大学生だったとはいえ、さすがに限界がある。
結果、食べきれなかった。
本場の焼肉はうまいけど量がすごい
量には驚いたけれど、味はさすがに美味しかった。
本場の焼肉。
普通にうまい。
肉そのものも美味しいし、韓国で食べているという雰囲気も加わる。
旅先で食べるご飯は、同じものでも少し美味しく感じることがある。
しかも、この日はWonと日本人留学生の方と一緒だった。
一人で食べる食事とは違う。
誰かと食べると、料理の印象も変わる。
ただし、量は完全にバグっていた。
今思い返しても、あのときの「多いな」という感覚は残っている。
食べても食べても減らない。
韓国の焼肉屋、容赦ない。
そんな印象だった。
でも、これも現地に行かないと分からない。
日本で韓国料理を食べるのと、韓国で韓国の人と一緒に食べるのは違う。
料理そのものだけでなく、量の感覚や店の雰囲気も含めて文化なのだと思う。
食べきれなかったのは少し申し訳なかったけれど、かなり印象に残る昼食だった。
午後は国立中央博物館へ
昼食後は、そのまま観光へ向かった。
まず行ったのは、国立中央博物館。
とにかく広かった。
そして展示の数も多かった。
正直、全部をじっくり見ていたら一日では足りないレベルだったと思う。
博物館という場所は、旅行中に行くと少し難しい。
じっくり見れば見るほど面白い。
でも、時間も体力も限られている。
しかも、言葉が分からないと展示の理解にも限界がある。
当時の自分は、韓国の歴史について詳しかったわけでもない。
展示の説明をしっかり読み込めるほどの語学力もなかった。
それでも、実物を見るだけで感じるものはあった。
器や道具、歴史的な展示物。
詳しい説明が分からなくても、長い時間の積み重ねは伝わってくる。
軽く見て回るだけでも、かなり満足感があった。
ソウル観光らしい時間だった。
昨日までの自分だけでは、ここまでたどり着けなかったかもしれない。
Wonが案内してくれたからこそ、こういう場所にも行けた。
景福宮で韓国の歴史を感じる
その後は、景福宮へ向かった。
キョンボックン。
ここは、さすがに有名な観光地。
日本人観光客もかなり見かけた。
海外で日本人観光客を見ると、少し不思議な安心感がある。
「あ、日本人もいるんだ」
それだけで、少し心が軽くなる。
でも同時に、自分も観光客の一人なのだと実感する。
景福宮は、歴史ある建物のスケール感や雰囲気が印象的だった。
写真で見るのとは全然違う。
実際にそこに立つと、建物の大きさや空間の広がりを体で感じる。
日本の寺社や城とも違う。
でも、同じ東アジアの歴史として、どこか近さも感じる。
韓国に来ているという実感がさらに強くなった。
当時の自分は、歴史を深く語れるほど知識があったわけではない。
それでも、景福宮を歩いていると、ただの観光以上の時間に感じた。
韓国という国の昔からの姿に、少し触れているような気がした。
夕方、ソウルタワーへ向かう
夕方になると、Wonが
「タワー行こう」
という感じで案内してくれた。
向かったのはソウルタワー。
途中までタクシーで移動し、そこからケーブルカーで上へ向かった。
料金は500ウォンくらいだったと思う。
細かい金額は今となっては少しあやしいけれど、安かった印象がある。
タクシー、ケーブルカー、そしてタワー。
こういう移動だけでも楽しい。
自分一人だったら、たぶん行き方が分からず、諦めていたかもしれない。
でも、Wonがいることで自然に連れて行ってもらえた。
現地の友人がいる旅は、ガイドブックだけでは行けない場所や時間を連れてきてくれる。
ソウルタワーへ向かう頃には、少しずつ日が落ちてきていた。
昼から夜へ変わる時間。
この時間帯に高い場所へ行くのは、かなり良い。
街の表情が変わっていくのを見られる。
初海外3日目の自分にとって、かなり印象的な時間になった。
ソウルタワーから見た夜景
ソウルタワーからの景色は、本当にすごかった。
昼から夜に変わっていく街並み。
少しずつ灯りが増えていく感じ。
「ああ、これが海外の夜景か……」
そう思った。
東京の夜景とは、また違う雰囲気があった。
日本で見る夜景ももちろんきれいだ。
でも、海外で見る夜景は、少し感情が違う。
自分は今、日本ではない場所にいる。
遠くの街の明かりを見ている。
その一つひとつの明かりの中に、韓国の人たちの生活がある。
そう考えると、不思議な気持ちになった。
昨日までは、自分がどこにいるのかすらよく分かっていなかった。
それが今日は、ソウルタワーから街を見下ろしている。
この変化がすごい。
旅は、1日で景色も気持ちも大きく変わる。
ソウルの夜景は、初海外の自分にとってかなり強い記憶になった。
景色そのものもきれいだったけれど、それ以上に、その景色をWonに案内されて見ているということが大きかった。
明洞で夜を過ごす
夜は明洞へ向かった。
ミョンドン。
韓国の中でも有名なエリアで、日本人にもなじみがある場所だと思う。
この時点で、時間は20時を過ぎていた。
そのまま夕食を食べることになった。
昼も焼肉でかなり食べたはずなのに、夜は夜で食べる。
旅行中の胃袋は不思議だ。
いや、不思議というより、若かったのだと思う。
今の47歳の自分なら、昼にあれだけ焼肉を食べたあと、夜にしっかり食べるのは少し考える。
胃袋が会議を始める。
でも当時は大学生。
若さがある。
そして、海外での初めての食事体験に対する好奇心もある。
明洞の夜の雰囲気は、にぎやかだった。
店があり、人がいて、夜でも街に活気がある。
昼の仁寺洞や博物館、景福宮とはまた違う韓国の顔だった。
一日の中で、伝統的な場所、歴史的な場所、夜景、繁華街。
かなり盛りだくさんである。
初めてのジャージャー麺
夕食で食べたのは、ジャージャー麺。
これも初めてだった。
名前は聞いたことがあったかもしれない。
でも、韓国で実際に食べるのはもちろん初めて。
黒っぽいソースがかかった麺。
見た目にもインパクトがある。
そして、ここで問題が発生した。
麺が長すぎる。
とにかく食べづらい。
どうやって食べればいいのか分からない。
箸で持ち上げても長い。
すすればいいのか。
切るのか。
そのままいくのか。
またしても食べ方が分からない問題である。
2日目のチヂミに続き、3日目も食べ方で戸惑っている。
海外の食事は、味だけでなく食べ方も文化なのだと改めて思う。
日本なら、だいたい食べ方が分かる。
でも海外では、当たり前が違う。
こちらが戸惑っていると、店のおばさんがハサミを取り出した。
そして、麺をチョキチョキ切ってくれた。
韓国ではハサミで切る文化が普通だった
麺をハサミで切る。
これにはかなり驚いた。
「え、切るの!?」
と思った。
日本では、麺をハサミで切る場面はあまり見ない。
少なくとも、自分にとってはかなり新鮮だった。
でも韓国では、これが普通らしい。
屋台でも、レストランでも、ハサミで食材を切る文化がある。
2日目のチヂミも、屋台のおばさんがハサミで切ってくれた。
この日のジャージャー麺も、お店のおばさんがハサミで切ってくれた。
ここで、自分の中でつながった。
韓国では、ハサミが食事の道具としてかなり自然に使われている。
これは、この日一番のカルチャーショックだったかもしれない。
包丁ではなく、食卓でハサミ。
日本ではあまり見ない感覚だった。
でも、実際に切ってもらうと食べやすい。
合理的である。
文化の違いというのは、こういう小さなところに出るのだと思う。
大きな建物や歴史的な説明より、食卓のハサミのほうが強く記憶に残ることもある。
旅って、そういうものだ。
一日が濃すぎて頭がいっぱいになる
この日は本当に濃かった。
朝10時にWonと初対面。
日本語がほとんど通じない中で、「しばくぞ われ」という謎の日本語に笑う。
バスと電車で仁寺洞へ行く。
韓国茶のお店でゆず茶を飲む。
日本人留学生と出会う。
焼肉屋で食べきれないほどの肉に驚く。
国立中央博物館へ行く。
景福宮を歩く。
ソウルタワーから夜景を見る。
明洞でジャージャー麺を食べる。
そして、麺をハサミで切る文化に驚く。
1日に詰め込みすぎである。
今の自分なら、途中で一度ホテルに戻って休みたい。
47歳の体は、こういう濃い日程に対して慎重だ。
でも当時は若かった。
初海外の刺激もあった。
疲れよりも、見るものすべてが新しいという気持ちが勝っていた。
もちろん、頭はかなりいっぱいだったと思う。
言葉も通じない。
移動も分からない。
でも、Wonが案内してくれる。
その流れに乗って、一日がどんどん進んでいった。
Wonがホテルまで送ってくれた
食事が終わる頃には、すでに夜だった。
Wonはお姉さんに迎えに来てもらうらしく、自分をホテルまで送ってくれた。
これもありがたかった。
夜の韓国で、一人でホテルまで戻るのは不安があったと思う。
まして、自分のいる場所がソウル市内ですらなかったと前日に知ったばかりである。
自力で帰れと言われたら、かなりしんどかったはずだ。
Wonは、最後まで案内してくれた。
言葉はほとんど通じなかった。
でも、行動で伝わるものはある。
ホテルまで送ってくれる。
一緒に移動してくれる。
食事に連れて行ってくれる。
観光地へ案内してくれる。
それだけで十分だった。
完璧な会話はできなくても、友人としての優しさは伝わった。
この日、Wonがいなかったら、自分はここまで濃い一日を過ごせなかったと思う。
たぶん、ホテル周辺をうろうろして終わっていたかもしれない。
それはそれで旅だけど、この日の経験とはまったく違うものになっていたはずだ。
「うち泊まる?」という突然の提案
ホテルまで送ってもらったあと、Wonが最後に一言言った。
「うち泊まる?」
突然の提案だった。
正直、ちょっと迷った。
現地の友人の家に泊まる。
それはそれで、かなり貴重な経験になる。
ホテルでは見られない韓国の日常を見られたかもしれない。
Wonの家族とも少し関われたかもしれない。
旅としては、かなり面白い展開だったと思う。
でも、そのときの自分は疲れていた。
初めての海外。
初日からホテル探し。
2日目は知らない街を一人で歩き、3日目は朝から晩までWonと観光。
言葉が通じない中で一日を過ごすのは、思っている以上に体力を使う。
楽しかった。
でも、疲れていた。
そして、一人で少しゆっくりしたい気持ちも強かった。
だから、丁寧に断ることにした。
今思えば、泊まっていたらまた別の思い出になっていたかもしれない。
でも、あのときはホテルに戻って休むのが正解だったのだと思う。
一人の時間も必要だった
海外一人旅をしていると、人との出会いはものすごく大事だ。
この日のように、現地の友人と過ごす時間は本当に貴重だった。
一人では行けない場所へ行ける。
一人では分からない文化に触れられる。
一人では食べられないものも食べられる。
でも同時に、一人の時間も必要だった。
特に、言葉がほとんど通じない相手と一日中過ごすのは、楽しいけれど疲れる。
ずっと集中している。
相手の表情を見て、言葉を聞き取ろうとして、ジェスチャーを読み取って、自分も何か伝えようとする。
それは、普通の会話よりもずっとエネルギーを使う。
ホテルの部屋に戻って、誰にも気を使わずに休む時間。
それも必要だった。
Wonの家に泊まる選択をしなかったことに、少し心残りがないわけではない。
でも、無理に行っていたら、疲れすぎて楽しめなかったかもしれない。
旅では、面白そうな選択肢をあえて選ばないこともある。
そのときの自分の体力や気持ちを守るために。
この日、自分の中で何かが変わった
3日目を終えて、自分の中で何かが変わった気がした。
初日は、海外に来たというだけで精いっぱいだった。
2日目は、知らない街を一人で歩き、言葉が通じなくてもなんとかなることを少し知った。
そして3日目。
ネットで知り合った人と現実に会い、一日中案内してもらい、韓国の文化や人に触れた。
海外旅行は、ただ有名な場所を見るだけではない。
人に会うこと。
一緒に食べること。
言葉が通じない中で笑うこと。
困ったときに助けてもらうこと。
そういうものが、旅を濃くしていく。
この日、自分はそれを体で感じた。
景色も良かった。
ゆず茶も美味しかった。
焼肉もすごかった。
ソウルタワーの夜景もきれいだった。
ジャージャー麺も印象に残った。
でも、一番残っているのは、やっぱり人だ。
Won。
日本人留学生の人。
お茶屋や食堂の人。
その人たちとの関わりが、この日を特別にした。
海外って人なんだと思った
この日の経験で、海外への見方が少し変わった。
海外旅行というと、行く前は観光地や食べ物のことばかり考えていた。
どこを見るか。
何を食べるか。
何を買うか。
もちろん、それも楽しい。
でも、旅が終わってから強く残るのは、人との時間だった。
Wonとホテルの部屋で初対面した瞬間。
「しばくぞ われ」という謎の日本語。
一緒にバスや電車に乗ったこと。
仁寺洞のお茶屋で過ごした時間。
日本人留学生に会って衝撃を受けたこと。
焼肉の量に驚いたこと。
ソウルタワーの夜景を見たこと。
明洞でハサミ文化に驚いたこと。
全部に人がいた。
一人旅なのに、人の記憶が濃い。
それが面白い。
一人で海外に行ったからこそ、人に助けられることの大きさも分かった。
自分一人では何も分からない。
でも誰かが案内してくれる。
誰かが教えてくれる。
誰かと一緒に笑える。
それだけで、知らない国が少し近くなる。
まとめ
初めての海外一人旅3日目は、この旅の中でも間違いなく濃い一日だった。
この日は、事前にネットで知り合っていた韓国の友人・Wonと会う約束をしていた。
朝、ホテルの部屋で少しそわそわしながら待っていると、ちょうど10時にドアをノックする音がした。
ドアを開けると、そこにはWonがいた。
NETOMOで知り合い、画面越しにやり取りしていた相手と、ついにリアルで会った瞬間だった。
正直、少し感動した。
ただ、すぐに言葉の壁が来た。
Wonは日本語がほとんど話せず、自分も英語が得意ではない。
しかも、Wonが知っていた日本語がまさかの「しばくぞ われ」。
どんな日本語を教わっているんだよ、とツッコミたくなるスタートだった。
それでも、ジェスチャーと簡単な英語でなんとか意思疎通しながら、バスと電車で観光へ出発した。
最初に向かったのは仁寺洞。
伝統的な雰囲気が残る観光エリアで、韓国らしい街並みが広がっていた。
平日でも観光客はそこそこ多く、日本人らしき人も見かけた。
そこでようやく、「海外に来ているんだな」と実感が湧いてきた。
仁寺洞では、お茶屋に入り、初めて韓国茶を飲んだ。
自分が頼んだゆず茶は、甘さの中にほんのり酸味があり、果肉もたっぷり入っていて、飲み物というより軽いデザートのようだった。
緑茶、シナモン茶、高麗人参ジュースなど、日本ではあまり見かけないメニューも並んでいて、メニューを見るだけでも文化の違いを感じた。
その後、Wonの紹介で日本人男性と会った。
自分より少し年上で、韓国に一人で来て生活し、ボランティア活動もしている人だった。
初海外で右も左も分からない自分から見ると、同じ日本人なのにすでに海外で生活しているその人の存在はかなり衝撃だった。
「行動力ってこういうことなんだな」と素直に思った。
昼ごはんは3人で焼肉屋へ。
韓国といえば焼肉、ということで楽しみにしていたけれど、出てくる量がとにかく多かった。
日本の感覚で頼むと完全にミスる。
食べきれないほどの量に驚きつつ、味はさすが本場で普通に美味しかった。
午後は、国立中央博物館へ。
とにかく広く、展示の数も多く、全部をじっくり見ていたら一日では足りないほどだった。
その後は景福宮へ行った。
有名な観光地だけあって、日本人観光客も多く、歴史ある建物のスケール感や雰囲気は、写真で見るのとは全然違った。
夕方には、Wonの案内でソウルタワーへ向かった。
途中までタクシーで移動し、そこからケーブルカーで上へ。
料金は500ウォンくらいだったと思う。
ソウルタワーから見た景色は本当にきれいだった。
昼から夜に変わっていく街並み。
少しずつ灯りが増えていく感じ。
東京とはまた違う、海外の夜景だった。
夜は明洞へ行き、20時を過ぎた頃に夕食。
食べたのはジャージャー麺だった。
これも初めてで、麺がとにかく長く、どう食べればいいのか戸惑った。
すると店のおばさんがハサミを取り出して、麺をチョキチョキ切ってくれた。
日本ではあまり見ない光景で、「え、切るの!?」と驚いた。
2日目の屋台のチヂミもハサミで切ってもらったので、韓国ではハサミで食材を切る文化が普通なのだと知った。
この日の大きなカルチャーショックだった。
食事が終わる頃には、すでに夜。
Wonはお姉さんに迎えに来てもらうらしく、自分をホテルまで送ってくれた。
最後に「うち泊まる?」と誘ってくれたが、初めての海外での疲れもあり、一人でゆっくりしたい気持ちも強かったので、丁寧に断った。
泊まっていたらまた別の思い出になったかもしれない。
でも、あのときの自分には、ホテルで休む時間も必要だった。
3日目は、ネットで知り合った人と実際に会い、現地の文化に触れ、言葉が通じない中でコミュニケーションを取った一日だった。
全部が新鮮で、全部が刺激的だった。
そして何より思ったのは、海外って人なんだなということ。
景色もいい。
食べ物も楽しい。
でも、一番印象に残るのは、やっぱり人だった。
Wonと過ごしたこの一日があったからこそ、その後も海外にハマっていった気がする。
初海外一人旅は、まだ続く。
でもこの日を境に、自分の中で何かが変わったのは間違いない。
海外は怖い。
言葉も通じない。
分からないことだらけ。
でも、人に会うと、一気に世界が近くなる。
そんなことを、韓国の3日目で少しだけ知った。